1889年5月15日、予定通りに完成したエッフェル塔は、一般公開と同時に人々を強く惹きつけました。そしてそれと同時に、エッフェル塔内で販売されたのが、フランスで初めてのイラスト付き絵葉書でした。
この最初の絵葉書を手がけたのは、彫刻家レオン=シャルル・リボニス。写真ではなく、線と陰影で描かれた塔は、完成したばかりの巨大構造物に対する驚きと高揚感を、そのまま紙の上に封じ込めたものだったのでしょう。
1840年、イギリスで初めて切手が発行され、フランスでは1849年に初発行されました。葉書制度の導入は、1860年代の交通網の発達を背景に、1872年に正式に制度化されます。
それまで、書式に厳しい封書による書簡は主に高等教育を受けた人々のものでしたが、義務教育制度の整備と識字率の向上によって、書式に縛られず、限られたスペースに自由に書ける葉書は、急速に一般的な通信手段となっていきます。
つまり19世紀後半、絵葉書はまだ新しいメディアでした。
短い言葉と一枚のイメージで、今見ているもの、今感じていることを、すぐ誰かに伝える。
私たちは現在、同じようなことをSNSで行っていますが、当時の絵葉書は、それに匹敵するほど革新的な存在だったのです。

1889年8月27日には、エッフェル塔の三つの階すべてに郵便箱が設置され、手紙を書くためのテーブルまで用意されました。記録によれば、毎日平均6,000枚もの絵葉書が、この塔から投函されたといいます。
人々は塔に登り、景色に息をのみ、その場でペンを取りました。「今、ここにいる」という興奮を、できるだけ早く誰かに伝えたかったのでしょう。
我が家にあるこの一枚も、そうした時代の絵葉書のひとつです。

消印には「TOUR EIFFEL – PARIS」、そして1889年10月15日の日付。宛先はMonsieur Eiffel, dans sa Tour, Paris…(エッフェル氏、彼の塔の中、パリ)間違いなく、エッフェル塔の中からギュスターヴに宛てて投函されたものです😆

リボニスによるイラストのエッフェル塔の横には筆者のメッセージがこのように入っています。
**Vraiment c’est effrayant,
tout ce qui peut surgir d’une tête zélée.
Vraiment c’est… eiffelant,
tout ce qui peut sortir
d’une tête… eiffelée !**
(日本語訳)本当に恐ろしい。
熱に浮かされた頭から、何が飛び出してくるかわからない。
本当にこれは……エッフェル的だ。
熱に浮かされた頭から生まれた、エッフェルだ!
effrayant(恐ろしい) と Eiffel をかけた、軽妙なジョークとも皮肉とも取れる言葉遊びです。この一文からは、塔に対する畏怖と同時に、それを面白がる気持ちがはっきりと伝わってきます。
1889年の秋、初めて体験する高さの塔で興奮しながら書いた様子が、今にも目に浮かぶようです。
万国博覧会が終了すると、フォトタイプ技術の発展によって、高品質な写真絵葉書が大量に印刷できるようになります。やがてエッフェル塔の姿は、写真として無数に流通していきました。
時代が進み、絵葉書は次第に日常的な通信手段ではなくなりました。それでもエッフェル塔は、今もなおパリで最も絵葉書になり続けているモニュメントのひとつです。
コメントを残す